最近の成果
電気伝導性物質において対象性の破れに伴い現われうる Rashba 型のスピン軌道相互作用により誘起される特異なスピン-電気交換特性、輸送特性及び光学的特性を理論的に解析し、金属系物質のスピン-電気交差相関現象を統一的に記述、理解することに成功した。電流やスピン、スピン流などの応答関数を場の量子論に基づき厳密に計算し、DC 極限から光の振動数領域までの電気及び磁気の交差相関応答を明らかにした。またそれらの相関関数から誘電率、透磁率、さらに交差相関を表す係数を同定し、それに基づき電磁波の分数関係を解析、円偏光の挙動や方向二色性などの特性、また電磁メタマテリアルとしてのふるまいなどを明らかにした。
関連論文
Theory of Anomalous Optical Properties of Bulk Rashba Conductor
Junya Shibata, Akihito Takeuchi, Hiroshi Kohno and Gen Tatara
J. Phys. Soc. Japan 85, 033701 (1-5) (2016).
高密度記録素子や演算素子において温度上昇に伴う排熱の処理は避けられない問題である。特に集積化により微細化した素子にとってはこの問題は性能向上において致命的な障害となりうる。この観点では熱によって引き起こされる輸送現象は、熱輸送により排熱の処理を効率的に行うだけでなく、排熱をデバイス動作のために再利用する可能性を実現しうる非常に重要な課題である。微小領域での熱輸送や熱誘起輸送現象の理論的定式化は1964年にLuttingerにより提案されており、原理的にはこれに沿って微小領域での熱輸送は記述できるはずである。しかしながらこの枠組みによる解析は計算が煩雑であり、それだけでなく、平衡流に伴って生じる非物理的寄与を物理的考察により正しく取り除く処理をしない限り絶対零度に向けて発散する誤った答えを出してしまうという致命的な欠陥をもつことが、多種の熱輸送現象への適用例により明らかになっている。2014年度我々は温度駆動スピン依存伝導現象の解析を進める上で、Luttingerの枠組みのもつ本質的欠点を改善した熱輸送を記述する理論体系の構築をおこなった。 これにより従来の熱輸送現象における理論の難解さはなくなり、エレクトロニクスの基盤となっている電子輸送の理論体系と同等に、使いやすく正確な理論体系を熱輸送現象についても実現することができた。また、これまで直感的な期待であった「金属中の電子に対して電場と温度差の効果は同様に働く」という推測を、今回構築した理論により裏付けた。
関連論文
Thermal vector potential theory of magnon-driven magnetization dynamics
Gen Tatara
Phys. Rev. B 92, 064405(1-10) (2015).
Thermal Vector Potential Theory of Transport Induced by a Temperature Gradient
Gen Tatara
Phys. Rev. Lett. 114, 196601(1-5) (2015).
スピン軌道相互作用のうち特に界面で発生する強いRashba型スピン軌道相互作用が、磁性と電気伝導特性に与える効果を解析した。その結果、磁化のダイナミクスとRashba型スピン軌道相互作用が組みあわさることで、起電力と有効磁場が発生するという事実を見出した。この起電力は、磁化の運動から生じるという点では、電磁気におけるFaraday則と似ているが、物質中の量子効果によって生みだされている新しい効果で、電磁気的効果と比べ物質中では圧倒的に強い効果である。この起電力のメカニズムはスピンのもつ量子的なBerry位相を拡張した概念で理解することができる。有効電場だけではなく有効磁場も発生することはこれまでの研究で示唆されていたが、本研究ではスピンホール効果の解析をすることでその表式を具体的に求めた。Rashba型相互作用に起因する有効電場磁場は、Rashba相互作用の最低次でMaxwell方程式を満たすことも確認できた。また、Rashba相互作用のみの場合は通常のMaxwell方程式で記述されるが、それに加えてスピン緩和が存在するときにはモノポール項が現れることも確認できた。
関連論文
Rashba-induced spin electromagnetic fields in a strong sd coupling region
N. Nakabayashi and G. Tatara
New J. Phys., 16, 015016 (1-18) (2014).
Monopoles in ferromagnetic metals
G. Tatara, A. Takeuchi, N. Nakabayashi, and K. Taguchi
J. Korean. Phys. Soc. 61 1331-1348 (2012).
Spin Damping Monopole
Akihito Takeuchi, Gen Tatara
J. Phys. Soc. Jpn. 81 033705 (1-4) (2012). (Editors' Choice)